-----活動報告書23 資料 学内広報「バリアフリー最前線!」 左側:第一回 差別解消法と「バリアフリー」 バリアフリー支援室特任助教 中津真美(なかつ まみ)  平成28年4月に、「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、差別解消法)が施行されてから、ちょうど1年が経過しました。昨年度は、各部局の教授会を中心に、差別解消法への対応に関する研修会を50件ほど実施し、多くの教職員の方々にその趣旨をご理解いただくことができました。詳しくは、東京大学規則集「東京大学における障害を理由とする差別の解消の推進に関する対応要領」をご覧ください。 これまでも、既に東京大学では、東京大学憲章で「全構成員が、国籍(中略)、障害等を理由に不当な差別を受けることなく、その個性と能力を十全に発揮しうる公正な教育・研究・労働環境の整備を図る」と宣言し、全国大学に先駆けてバリアフリー支援のための取り組みを進めてきましたが、これからは大学の理念と併せて法令遵守の観点からも、バリアフリー支援が促進されるという時代になりました。 ところで、なぜ東京大学では、「障害者支援」ではなく「バリアフリー支援」なのでしょうか。実は、この名称にこそ、バリアフリー支援室が発足当時から受け継いできた理念があります。バリアフリー支援という名称には、障害のある学生・教職員に対して、社会が築いているバリア(社会的障壁)こそが問題であるという認識が背景にあります。そうした障壁こそが問題なのであり「障害者」が問題なのではないという基本的な認識です。このことにより、施設・設備の改善、人的サポートの提供や支援機器の整備なども、特定の障害者個人のための支援というよりは、さまざまな条件を持った多様な人々がともに学ぶ大学を目指すという、大きな取り組みの一環であるという考え方ができます。  今後は、差別解消法と、なにより本学の基本理念をもって、誰もが参加できる豊かで活力ある「バリアフリーの東京大学」が、ますます進化することを願っています。 写真:障害のある教職員との意見交換会を毎年開催しています。 右側:第二回 事例で考える差別と非差別の間 バリアフリー支援室特任専門職員 小野彰子(おの あきこ)  前回は「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律」(以下、差別解消法)の施行に伴い、本学が東大憲章の理念に基づいて進めてきたバリアフリー支援の取り組みが法令遵守の観点からも促進される時代になった旨をお伝えしました。今回は具体的にどのようなことが差別にあたるのか事例を基に考えてみたいと思います。次の各事例は差別にあたるでしょうか? 事例1)視覚障害があることを理由に入学を拒否した。 事例2)学外者の参加を認めていない研究会に聴覚障害のある学生から手話通訳をつけてほしいと要望があったが、手話通訳者は学外者なので断った。 事例3)聴覚過敏があり、皆と同じ教室では試験に集中できないという学生に別室を用意して個別での受験を認めた。  1はおそらく誰もが差別だと分かる事例だと思います。これは障害を理由に障害のない者と異なる取扱いをする「不当な差別的取扱い」として差別解消法で禁止しています。2はどうでしょう?「手話通訳者は学外者だからしかたがない」と思う人もいるかもしれません。しかし、手話通訳をつけなかったために学生が研究会の内容を理解することができなければ、これは「合理的配慮の不提供」として差別と見なされます。  では最後の3はどうでしょうか?「試験に集中できるできないは気の持ちよう」と思うかもしれませんが、聴覚過敏とは特定の音(声)だけを聞こうと思っても環境音を含めた周囲の音が同様に耳に入り不快感や苦痛を伴う状態で、中には体調が悪くなる人もいるのです。「でも、異なる取扱いをすることがそもそも差別なのでは」という声が聞こえてきそうですが、これは正当な理由により異なる取扱いをする「合理的な配慮の提供」で、差別ではありません。合理的配慮は種々の条件の下、本人と大学側の合意形成に基づき実施されるもので、「○○障害だからこの配慮」と一律に決まるものではありません。これについては次回詳しくお伝えします。 絵/岡崎咲弥(おかざき さくや、文学部4年):手話通訳を頼んだのに、付けられていない様子 -----活動報告書24 左側:第三回 環境の整備・合理的配慮の提供 バリアフリー支援室特任専門職員 波多野比美子(はたの ひみこ)  前回までに、合理的配慮の内容は障害者と大学側の相互理解のもとに決定され、個別性が高いことを説明しました。一方で、法には「環境の整備」という、不特定多数の障害者にとって障壁のない環境の実現に努めるものとするとあります。  本学が、不特定多数の障害者が使用しやすいユニバーサルデザインで設計されていれば、差別の解消に当たり、本人の意思表明も合理的配慮の提供も必要としなくなります。可能な範囲でユニバーサルデザインに近づける事前的改善措置(環境の整備)を進めることが、障害者にも本学にも効率が良いと考えられます。 本学では、障害者への配慮という考えのない時代に建てられた古くからの建物を継続利用しています。ここに障害者対応のスロープやエレベーターを設置する際、「美しい建物の景観を損なわないよう建物の裏側にスロープ作ったから、障害者は遠回りして入ってね」、或いは、健常者は建物に複数ある出入口から最短経路の便利な出入口を選んで使えるのに「障害者用のスロープは1箇所あるんだから、そこから入れば。不便でも無いよりマシでしょ」という考えではなく、健常者と可能な限り同じルートでアクセスできること、また健常者にある選択のチャンスが障害者にも同等にあることが求められていきます。 改修や後付け工事は、時間も経費も余分に要します。建物新営や大規模改修の際に、計画的に環境を整備することが、中・長期的なコストの削減・効率化につながるのです。 個々の建物がユニバーサルデザインで完全であっても、周囲の建物との連続性を考慮しないと使い難いことがあります。障害のある人が、どのように動き、どのように使うのかを想像し、対応する姿勢が問われる時代になっています。 誰もが使いやすいキャンパス環境を目指し、古い建物にバリアフリー設備を加えても、その古き美しさが活かされるような整備が進むことを願います。 写真:【安田講堂南側坂道】行動側2m幅のピンコロ石表面を削って平滑化。車いすでスムーズに移動ができるようになりました。施設部環境課のアイディアに感謝!!! 右側:第四回 バリアフリーなシンポジウムの作り方 バリアフリー支援室 係長 柴崎啓子(しばさき けいこ)  勉強の秋!食欲の秋!? 教職員の皆様におかれても、シンポジウムや講演会、研修などの企画をされることも増えると思います。そこで、今回のテーマは、支援機器を活用した「バリアフリーなシンポジウムの作り方」です。昨年4月に障害者差別解消法が施行され、本学は、大学で主催するシンポジウム、講演会、研修などに参加する教職員、学生、一般来場者(登壇者含む)で障害のある方に対して、合理的配慮の提供が義務付けられました。一例をご紹介しましょう。 ◆事前の案内  ポスター、ウェブサイト等に「障害等のため、設備、情報保障等の配慮が必要な場合には、申込時に申し出てください」などの案内をしましょう。2週間前程度の期限を明記すると、万一、配慮を提供ができない場合に理解を得られやすくなります。期限後の申し出であっても、提供は試みなければなりません。また、ウェブサイトは文字の認識がしやすく、音声読み上げソフトに対応した仕様とすることが望まれます。 ◆アクセスしやすい会場  エレベータ、多目的トイレが近くにあり、入口に段差がないなどアクセスしやすい会場を選定します。少しの段差であれば、可動式の簡易スロープを設置することで解消できる場合があります。 ◆聴覚障害のある方への配慮  音声を聞き取りやすくするための補聴援助システム、音声認識アプリ「UDトーク」(法人契約)の利用、手話通訳、パソコン文字通訳による字幕表示、インターネット配信時の字幕作成などがあります。 ◆視覚障害のある方への配慮  会場への誘導(入口から座席など)の要望があれば対応しましょう。文字を拡大した資料、点字翻訳した資料、電子データ化した資料を可能な限り事前に提供しましょう。  いかがでしたか? ご紹介した支援機器はバリアフリー支援室で貸出可能です。配慮に当たっては、本人と相談の上、決定しましょう。ご不明な点は、遠慮なくバリアフリー支援室にご相談ください。 写真:2014年度バリアフリーシンポジウム。手話通訳者を配置し、パソコン文字通訳による字幕を表示しています。 -----活動報告書25 左側:第五回 支援の両側からみた差別解消法 バリアフリー支援室教務補佐員 植田明季・山本篤(うえだ あき・やまもと あつし)  前回までに「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(以下、差別解消法)」施行後の本学における取り組み事例についてご紹介しました。今回は、差別解消法施行後の支援を行う側、支援を受ける側の学生の状況についてお伝えします。  障害のある学生の支援を行う側(学生サポートスタッフ)からみると、本学では13年前のバリアフリー支援室設置以降、東大憲章に基づき、支援に関する取り組みを進めているため、法施行による目立った変化はありませんが、今後はさらに支援体制の強化や環境の整備がなされていくと考えます。学生同士の関わりについては、支援体制が整う十数年前は、支援の在り方や支援方法について活発に議論を交わすなど、お互いの繋がりが深かったように感じます。支援体制が整っていくにつれて、支援場面以外での学生同士の交流は少なくなったかもしれません。支援をきっかけに交流が深まることで、支援の質が向上し、気づきや学びもあるため、法令遵守は勿論ですが、学生同士の繋がりも大切に支援していくことが必要だと考えます。  一方、支援を受ける側の障害のある学生からみると、支援体制が整っていない時代においては、障害者支援は良くも悪くも「善意」によるところが大きかったように思います。ボランティアは大変ありがたいものでしたが、逆に「善意」だからこそ、支援内容に注文が付けにくいなどの問題もありました。試行錯誤を重ねながら積極的に関与し、労力を割かなければ十分な支援を受けられなかったのが、現在は法的根拠の下、支援に至るプロセス(意思表明、合意形成)が明確になったことで、支援を受ける側の労力は軽減されたように感じます。支援を受ける上で、障害について自覚し必要な支援を明確に伝えるという、意思表明の必要性は以前からもありましたが、プロセスがより明確になったことで、そのスタートラインである意思表明そのものに対する支援も重要になってくるものと思われます。 写真:書くことに困難を有する学生の確認を受けて支援学生がノートを作成します。 右側:第六回 支援と医療 バリアフリー支援室准教授 垣内千尋(かきうち ちひろ)  これまで5回にわたって障害者差別解消法施行に伴う東京大学におけるバリアフリー支援について紹介してまいりました。今回が最終回となります。バリアとは障害のある方々をとりまく社会的障壁のことであり、障害そのものではありませんが、障害を医療的側面からも理解することは、より適切な合理的配慮へつながる一助となるものと考えます。今回は支援と医療について、精神科的なことを例に少し考えてみたいと思います。  精神科の対象とする疾患や障害においては、同じカテゴリーとされる障害であっても、症状や治療への反応性、また、生活における困り事の内容は様々です。ご本人の社会や生活背景、価値観などから、医療に対するニーズそのものも多様で、その中で医療の関われるところを悩みつつ、治療をすすめていくことになります。医療と同様に、ご本人の個性や能力を発揮しうる環境の構築にはどのような支援が必要か、ということも人それぞれです。たとえ同じ方であっても、治療経過におけるその時々の状態、また、本人をとりまく環境に応じて、必要な支援の内容は変わっていきます。病状によっては支援の相談以前に、治療を最優先とすることが必要となる事もあるでしょう。そのような状況で適時に適切な支援を進めるには、刻々と変化する状態に対する医療的アセスメントを十分にふまえる必要があり、医療者と支援者の連携が大切になります。  診察室の中では時にご本人の実際の生活や、どのような支援が適切なのかをうまく想像できないこともあります。一方で、私自身は支援の現場に参りましてからの日は浅いですが、支援を考えていく際に医療的状況の把握が重要であることを改めて感じることもあります。障害者差別解消法の施行を追い風として、さまざまな面からのアプローチにより、さまざまな条件を持つ多様な人がともに学び働くことのできるバリアフリーの東京大学が実現していくことを願ってやみません。 写真:駒場Iキャンパスにあるバリアフリー支援室駒場支所。本郷支所、本郷支所柏分室とともに、障害のある学生、教職員の相談に応じています。                -----活動報告書26 どうして「障害者支援」ではなく「バリアフリー支援」なのですか? 「バリアフリー支援」という名称には、障害のある学生また教職員に対して、私たちの社会が築いているバリア(障壁)こそが問題であるという認識が背景にあります。 今の社会で「障害者」とされている人たちに対して、有形・無形の多くの障壁を私たちの社会は築いてしまっています。 そうした障壁こそが問題であり、障害者個人に問題の本質があるのではないという基本的な認識に基づいています。 東京大学では、多様性が組織の価値を高め、構成員の多様化が組織の活性化につながると宣言しています。 東京大学バリアフリー支援室 本郷支所 (建物外観写真あり) 東京都文京区本郷7-3-1 学生支援センターMF TEL:03-5841-1715 FAX:03-5841-1717 柏分室(柏地区キャンパス) (入り口写真あり) (毎週火曜日開室) 千葉県柏市柏の葉5-1-5 新領域基盤棟2階2B5号室 駒場支所 (建物外観写真あり) 東京都目黒区駒場3-8-1 教養学部8号館111号室 TEL:03-5465-8944 FAX:03-5465-8952 東京大学バリアフリー支援室 (バリアフリー支援室ロゴマーク) 【URL】http://ds.adm.u-tokyo.ac.jp/ 【mail】spds-staff.adm@gs.mail.u-tokyo.ac.jp -----end