---p25 (スライド1) 合理的配慮提供を支える相談支援 ―「繋がる支援」の現状と課題― 東京大学 相談支援研究開発センター コミュニケーション・サポートルーム 川瀬英理(かわせ えり) 2021年度東京大学バリアフリーシンポジウム(2022.2.9) (スライド2) 東京大学相談支援研究開発センター コミュニケーション・サポートルーム 2005年4月、 「発達障害者支援法(第2章8条): 大学及び高等専門学校は、発達障害者の障害の状態に応じ、適切な教育上の配慮をするものとする」 〔注:「大学」は赤字〕 社会全体を見ても、発達障害への認識や理解が深まり、ニーズの多様さや高度化が求められた。 2010年10月、〔注:赤字表示〕 発達障害の相談に特化した「コミュニケーション・サポートルーム」を開室。 (スライド3) 2020年度利用者の初回利用時の主な相談内容(継続利用を含む、コンサルテーションを除く) 〔グラフの説明〕 円グラフ。右回りに相談内容別の割合を示す。 〇コミュニケーション・人間関係 29パーセント 〇発達障害の評価 20パーセント 〇進路・就職関係 11パーセント 〇不注意、スケジュール管理困難等 10パーセント 〇単位取得困難 10パーセント 〇研究関係 16パーセント 〇不登校 2パーセント 〇その他 2パーセント 〔グラフ終わり〕 (スライド4) 修学(教職員との連携)、就労、家族支援 〔グラフの説明〕 修学支援、就労支援、家族連携の年度ごとのパーセンテージを示す折れ線グラフ。 縦軸はパーセンテージ(5パーセント刻み)、横軸は年度。 修学支援:2018年度 約20パーセント、2019年度 約19パーセント、2020年度 約16パーセント 就労支援:2018年度 約20パーセント、2019年度 約21パーセント、2020年度 約22パーセント 家族連携:2018年度 約16パーセント、2019年度 約17パーセント、2020年度 約14パーセント (スライド5) 発達障害の特性に関係する大学での困りごと 〇修学 授業関係:口頭発表、グループワーク、レポート提出等の困難、興味喪失など 実験:手先の不器用、段取りがわからない、要領の悪さ、自主的に質問できない その他:想像力や推論を必要とする内容の困難さ、研究室での人間関係のトラブル、独特な勉強方法へのこだわり、強制力の低さや報酬の見えにくさ、興味のないことに対する衝動性の制御困難(欠席、遅刻、課題未提出) 〇進路(進学・就職)*大学入試と就職活動のギャップ 社会参加のイメージのなさ(アルバイト未経験等) 就労意欲のなさ:勉強(座学)以外に必要な能力が低い、精神的苦痛が強いことへの拒否感が強い 進路選択の決断困難:多様な価値観や評価、「やりたいこと」の欠如ととらわれ 〇メンタルヘルス 挫折や孤独感に伴う、抑うつ状態、適応障害 睡眠障害、衝動や感情コントロール困難 (スライド6) サポートメニュー 発達障害やその特性についての自己理解と〔下線始まり〕精神面のフォロー〔下線終わり〕 〇社会的マナー、会話のコツ、コミュニケーションのテクニックを知る 〇忘れ物・うっかりミス対策、整理整頓の工夫のアドバイスと行動形成 〇スケジュール、時間管理、生活リズムを整える工夫のアドバイスと習慣化  例)レポートを期日までに提出できない(計画立案と実行の行動形成) 〇課題、期末テスト先延ばしに関する環境調整方法のアドバイスと行動形成  例)集中学習室利用 〇修学支援: バリアフリー支援室、精神保健支援室(保健センター精神科)等と協同し、教職員等に特性説明を行い、適切な支援が得られるように調整する 〇進路・就労支援: 進路選択、職業・企業選択、提出資料や面接のサポート 就労支援機関や企業等との連携 〇医療機関との連携 ---p26 (スライド7) 集中学習室 〔写真あり〕 左:パーテーションで区切られたスペース(席の後ろの壁には事務室の内窓あり) 右:事務室側から見た学習室。パーテーションで3つに区切られ、各席にPCが置かれている。 (スライド8) 相談室に〔下線始まり〕つながる〔下線終わり〕には・・・ 〇自閉スペクトラム症 ・自分の感情や状況把握の困難さによる主観的苦痛感の起きにくさ ・問題の自己解決型 ・コミュニケーションの困難さによる社交不安 →報連相をしない、相談室利用のハードルが高い 【つながる工夫例】 ・単位取得不可による成績悪化や留年、心身の健康の不調や回避行動等を、家族や教員が把握する →相談室に同行してもらう ・大きな困りごとをきっかけに、自主的にSOSを出す →SOSの出し方が急であり、周囲のフォローが必要 ・社交不安がある場合は、かなり丁寧に、穏やかに、慎重に対応する ・一度つながったら、困りごとがなくても、継続的に面談する ・主観的な困り感ではなく、よくある困りごとがないか相談員から確認 *ただし、一旦つながると、継続しやすい (スライド9) 相談室に〔下線始まり〕つながる〔下線終わり〕には・・・ 〇注意欠如、多動症 ・不注意、衝動性、多忙等によるスケジュール管理の困難さ →遅刻や無断キャンセルになりやすい ・刺激や変化への衝動性、親和性 →相談室への継続的な通所の困難さ →「地道な工夫」に対する苦痛、幻滅、諦め 【つながる工夫例】 ・できるだけ同じ曜日、隔週60分よりも毎週30分の面談 ・面談の次回予約時に、カレンダー等の記入を見守る ・オンライン相談や電話相談の併用や活用 ・メール等によるコーチングにより面談時間以外もこまめに関わる *問題解決をしてくれるところ、楽しいところなどの認識となると継続する (スライド10) ―「合理的配慮」に〔下線始まり〕つながる〔下線終わり〕ための相談員の役割― (1)学生生活上の適応を〔赤字始まり〕定期面談で具体的に〔赤字終わり〕聴取する中で、配慮の必要性を見極める。 (2)配慮の妥当性(1~3)をある程度考える  1;その〔赤字始まり)障害に起因する〔赤字終わり〕不適応への配慮か?  2;〔赤字始まり)学術的要件〔赤字終わり〕(授業の本質)に関わっていないか?  3;〔赤字始まり)過度の負担〔赤字終わり〕(教員の労働や心理的負担や経済的な面など)にならないか? (3)本人に対する合理的配慮の説明とその希望の確認 (4)担当医がいる場合は、共同し、「1」の確認と診断書等の依頼 (5)合理的配慮の書類を当該学生、(担当医)、と共同で作成 (6)関係する教職員への配慮依頼を正式に申し込む際のコミュニケーション仲介やアシスト (7)各部署での面談等のためのリハーサルと同席(フォロー) (8)配慮実施中の定期面談による配慮の経過や困りごとの確認 (9)各部署の担当者または担当教員への連絡、調整 (スライド11) 発達障害学生への相談支援で直面する課題 ―(相談や支援等への)〔下線始まり〕つながる〔下線終わり〕支援に関して― (1)高校と大学の分断 支援を体系的に実施されている高校が少ないため、特性や配慮内容が大学に引き継がれることが少なく、相談支援には、本人や家族からの申し出が改めて必要 〔下線・太字始まり〕(2)修学支援には、本人の意思が必須条件〔下線・太字終わり〕  ①高校までと異なり、障害の自己理解(≒告知)が急に求められる  ②「障害」を理由とした配慮であり、「障害」として自己受容が前提なため、正式な「配慮」に抵抗を示し、配慮を受けられない学生が存在する ---end