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室長挨拶
室長 熊谷 晋一郎(平成30年4月6日)
建築物や道具、制度や慣習など、社会を構成する様々な要素は、主流派の特徴を持つ人々にとって使い勝手が良いようにデザインされています。ゆえに障害など、主流派とは異なる心身の特徴をもつ人々は、社会の中で様々な「できないこと(disability)」を経験することになります。つまり、できないことは、個人の「能力」の問題にのみ原因を帰することはできず、一部の人々にとって不利なデザインを備えた社会の側にも原因を見出すことができるということです。2016年に施行された「障害を理由とする差別の解消の推進に関する法律(障害者差別解消法)」でも、障害者が日常生活や社会生活において受ける制限は、心身の機能の障害のみに起因するものではなく、社会における様々な障壁と相対することによって生じるものとみなす「社会モデル」の考え方が踏まえられています。
障害のある人々の「できないこと」を減らし、社会への完全参加(full participation)を実現する方法には、心身の特徴を主流派に近づけるアプローチと、社会のデザインを障害のある人々にとっても使い勝手が良いものへと改良するアプローチの2つがあります。前者は個人の可変性に期待をするアプローチで、後者は社会の可変性に期待をするアプローチと言えますが、多くの場合、どちらか一方のみではなく、個人と社会それぞれの可変性を考慮に入れながら、両方のアプローチを組み合わせて支援が行われます。可変性が過剰に見積もられた側に、大きな負担が課せられることになりますので、双方の間で、変えられる部分、変えられない部分についての、建設的な対話と歩み寄りによる合理的配慮の実現が必要になります。
大学もまた、一つの社会ですから、これまで述べてきたことがそのまま当てはまります。東京大学は、東京大学憲章で、本学で学ぶ学生、本学で働く職員、本学で研究と教育にあたる教員からなる全構成員が、障害等を理由に不当な差別を受けることなく、その個性と能力を十全に発揮しうる公正な教育・研究・労働環境の整備を図ると宣言しています。2004年4月に設置された東京大学バリアフリー支援室は、その憲章の精神に則った大学キャンパスを実現すべく、主に環境側の改善を通じた全構成員の完全参加を目指して、本郷キャンパスと駒場Iキャンパスに支所を置いて障害のある学生、教職員のバリアフリー支援のための活動を進めています。
本学では、障害のある構成員の所属する研究科や研究所等の部局が主体となってバリアフリー支援を行うこととなっています。しかし、さまざまな障害に適切に対応するためには蓄積された経験とノウハウが必要です。そこで支援の経験を積んだスタッフやさまざまな知見を有する室員の所属するバリアフリー支援室が、障害のある学生・教職員と部局の間に立って、当事者中心(user-centered)の視点に基づき、建設的対話と合理的配慮の実現をサポートします。また、スタッフや室員は、バリアフリー支援のためのサポートやコーディネート、学生サポートスタッフの養成などの役割も果たしています。加えて、規模の大きい建築物や制度のデザインなど、いったん出来上がると可変性に制約が生じる環境要素については、その立案の段階から、障害をもつ構成員の継続的な参加とフィードバックによる共同創造(co-production)のプロセスを進めていくことが不可欠です。バリアフリー支援室は、こうしたプロセスを実現するため、積極的な情報提供、ヒアリング、環境モニタリングとフィードバックを行います。
大学のバリアフリー化と、構成員の完全参加という大きなミッションを実現するうえでは、すべての構成員の方々のご協力が不可欠となります。全学のみなさまのご理解とご支援を心よりお願いいたします。