聴覚障害について、知っておいていただきたいこと

1.聴覚障害とは

聴覚障害とは、医学的には、外部の音声情報を大脳に送るための部位(外耳、中耳、内耳、聴神経)のいずれかに障害があるために、聞こえにくい、あるいは聞こえなくなっている状態のことをいいます。外耳から中耳に障害があるものを「伝音性難聴」、内耳から聴神経にかけて障害があるものを「感音性難聴」といいます。また、感音系、伝音系の両方に障害がある「混合性難聴」もあります。

一口に聴覚障害といっても、聞こえかたには一人ひとり、大きな差異があります。「音量が小さくなったようになり、聞き取り辛くなる」「音質が歪んだようになり、音は聞き取れるが内容が聞き分けにくくなる」「補聴器をつけても音や音声がほとんど聞き取れなくなる」など、難聴の程度はさまざまです。補聴器等の装用によってある程度音声を聞き取れる軽度・中等度難聴の人であっても、周囲に雑音がある場合やコンクリートの壁に間こまれた反響の多い場所などでは、話が通じにくくなります。マイクを通した音声、テープや映像教材の音声などは、肉声に比べて聞きにくいものです。また聴覚障害者にとっては、聞き易い話し方をする人と聞きにくい話をする人がいます。モグモグした話し方をする相手とは話が通じにくくなってしまいます。

聴覚障害の多くを占める感音性難聴の場合はとくに、音声情報を<音>としては認識していても、<言葉>として正確に内容を聞き取ることが難しく、目の前の一人の人とは通じても、3人、5人となると、どこで誰が何を話しているのか、音声のみで把握することが非常に困難になります。何人かでの雑談、授業の際の質疑応答、ディスカッションなどがこれにあたります。

 

2.聴覚障害者とコミュニケーション

聴覚障害は外見上わかりにくい障害であり、その人が抱えている困難も、他の人からは気づかれにくい側面があります。また、聴覚障害はコミュニケーション障害であるともいわれます。コミュニケーションは人間関係を築く上で、非常に重要な手段です。

聴覚障害者のコミュニケーション方法は、聴覚障害の種類や程度のみならず、聴覚障害が生じた時期や、教育歴などによって、一人ひとり異なります。そのことは本人のアイデンティティとも深く結びついています。聴覚障害者のコミュニケーション方法には、手話、筆談、口話、聴覚活用などさまざまな方法がありますが、どれか一つがあれば十分ということはなく、多くの聴覚障害者は話す相手や場面によって複数の手段を組み合わせたり使い分けたりしています。

しかし、だれもが声を使って話したり聞いたりするのが当たり前だと思われている環境のなかでは、聴覚障害者は、周囲にあわせ、音声でのコミュニケーションを強いられることが少なくありません。周りの雰囲気に合わせて、わかったふりをせざるを得ないということもしばしば生じます。大勢の人と交わることに非常な労力を伴うため、そうした場への参加回数を減らすという対処をする人もいます。その結果、その人の性格に問題があると誤解されてしまうこともあります。また、音声言語を前提とする環境では、筆談をもとめるのは、聴覚障害者の能力や努力の不足と見なされることがあります。そのために、筆談を求めることも避けつづけてきたという人もいます。聴覚障害があることを明らかにしていない人も、少なくないのが現状です。聴覚障害者は、一人ひとり、聞こえ方も、コミュニケーションのしかたも、現在までの経験も異なっていることをふまえ、まずは聞こえない・聞こえにくい本人から、その置かれている状況を聞いて理解するようこころがけてください。 以下では、特に知っておいていただきたいことについてまとめました。

■補聴器について
補聴器は伝音性難聴に対しては最も音響増幅の効果があります。しかし殆どの伝音性難聴は耳鼻科医療で治すことができますから、実際には補聴器が適応されることは稀です。感音性難聴の人が補聴器を使用する最大の難点は、騒音に囲まれた場所で効果がない、離れた人の声が聞き分けにくくなることなどでした。例えば、静かな部屋の少人数の講義では、受け答えができていたのに、昼食でにぎやかなカフェテリアに行ったら、友達の話す声が聞き取れず、急に無口になる、といったことが生じます。最近の補聴器は、単に音を増幅するだけのものではなく、デジタル信号処理機能や騒音抑制機能などが付いた高性能な機種が多様に揃っています。耳介に掛ける「耳かけ形」や耳穴に入れる「耳あな形」が多く使われます。また、騒音の中や離れた話者との聞き取りを改善するための様々な「補聴援助システム」が選択できるようになりました。補聴器は一人ひとりの難聴の特性に合わせて処方された適切な機種を選択しなければ役に立ちません。初めに選択・調整された補聴器でも、その後の聴力の変化や使用場面などに応じて補聴器の音量や音質などの再調整が必要です。そのような補聴器のフィッティングに携わる専門家として補聴器相談医と認定補聴器技能者が全国に配置されています。

耳かけ形補聴器         耳あな型補聴器

【耳かけ形】                     【耳あな形】

FM補聴システム

【FM補聴器】

高性能な補聴器でも効果が得られない最重度な聴覚障害者が聴力を回復するために「人工内耳」の手術を受けることが多くなりました。しかし人工内耳は正常な聴力を取り戻してくれるものではありません。補聴器は失った聴力のほぼ半分程度を補償してくれるものですが、人工内耳装用者の聞こえ方は、中等度の難聴者が補聴器を装用したときの矯正聴力と似ていると言われます。ですから人工内耳装用者といえども難聴者としての聞こえの困難を抱えていることを理解して対応する必要があります。

■手話について
手話は、とくに先天性の重度聴覚障害者にとっては、重要なコミュニケーション手段の一つです。ただし、聴覚障害者がすべて手話を用いるわけではなく、日常的に手話を用いている人から、まったく手話がわからない人、手話を理解できるが、公の場では使いたくない人など、さまざまです。その背景には、手話が長年「単なるジェスチャー」として音声言語よりも一段「低く」見られ、ろう学校でも公的には教えなかった時代や地域があったこと、さらに近年では通常学校に通う聴覚障害児が増えていることなども影響しています。聴覚障害者=手話と思い込むのではなく、その人の用いるコミュニケーション手段を理解し、尊重することが大切です。

手話にもさまざまなバリエーションがあり、障害の生じた時期や手話を獲得した時期、教育歴によって、使用される手話も異なります。一般的に、ろう学校で学んだ人は、独自の文法を持つ日本手話を使用することが多く、音声言語を獲得後に失聴した中途失聴者や通常学校で学んだ人には、日本語の文法に基本的に沿って手話単語を表していく日本語対応手話が好まれます。

よく「手話は世界共通ですか」という質問がありますが、共通ではありません。世界各地で、音声言語とは異なる独自の文法を持つ視覚的な言語としての手話が話されていることが知られています。また、手話を日常言語として用いる人を「ろう者」と呼んで、その話者からなるコミュニティに着目する捉え方もあります。

■口話について
口話は、話し手の口元や頬の動き、表情などを視覚的に捉え、さらに文脈なども総合的に判断しながら、話の内容を推測、理解しつつ、表現には音声言語を用いる方法のことをいいます。聴覚障害者は、口話に加えて残存聴力を活用して聞き取る一部の音声情報を手がかりにすることもあり、その場合は「聴覚口話」といいます。しかし、「たばこ」「たまご」「なまこ」など口の動きが似ていることばや、同音異義語は、口の形を見ただけでは区別がつきません。初めて聞く話や突然場面が変わると、文脈がつかめず、口話がしづらくなります。暗いところでのやりとりや、離れた場所にいる相手とのやり取りにも限界があります。

聴覚口話は、聴覚障害者にとって、常に断片的な情報から話の内容を推測しなければならない、不安と緊張を伴う方法です。「補聴器をつけているから、比較的軽い聴覚障害だから、聞こえているだろう」「口元を読み取ってすべて理解しているだろう」と思い込まず、「聞こえていたとしても聞き取れないことがよくある」「口元を読むことには限界がある」ということをふまえたうえで、話の内容が伝わっているかどうか確認しながら、「声で話す」だけではなく「文字で書いて伝える」など視覚で伝える工夫をしてください。

※ホワイトボードや紙、ペンがないときは、携帯電話の画面に入力したり、ノートパソコンに入力したりすることもできます。
※確認するとき、「わかった?」と聞くのもかまいませんが、たいていの場合、聴覚障害者は、そのように聞かれてもどの部分の何についてそれを聞かれているのかわからず、場の雰囲気を乱さないためにも「わかった」と答えがちです。わかったかどうかを聞くよりは、聴覚障害者の顔を見て、アイコンタクトを取るようにすると、表情で、理解できているか判断できることも多いので参考にしてください。



3.スムーズなコミュニケーションと、情報アクセシビリティのために

■基本的にこころがけていただきたいこと
  • 音声だけで話すことは極力避け、視覚的な情報も併用する。
  • 複数の人がいる場では、話す前に、手をあげるなどして居場所を示して、自分の名前を必ず言うようにする
  • 極端に早口になりすぎないようにする。
  • 文節で区切りながら、はっきり、ゆっくりと話す。(ただし、あまり速度を落としすぎるとかえって分かりづらくなるので、不自然にならない程度で)
  • 同時に複数の人が話さないようにする。
  • できるだけ向かい合った状態で、アイコンタクトをとり、相手が自分の顔を見ているか確認してから話し(書き)始める。
  • 資料やマイクなどで顔が隠れないようにする。
  • 充分な明かりのあるところで話す。
■通訳者を介してのコミュニケーションでこころがけていただきたいこと
  • 極端に早口になりすぎないようにする。
  • 適度に間をとる
手話通訳や、文字通訳がつく場合でも、極端な早口で一気に話したり、複数の人が同時に話しはじめたりすると、通訳することができなくなってしまいます。話の区切りや、発言者が交代する際には適度な間をおき、伝わっているかを確認するようにしてください。通訳を介すると、ある程度タイムラグが生じますから、聴覚障害者に質問したり、発言を求めたりするのは、通訳者が通訳し終えるまで待つようにします。また、主体はあくまでも聴覚障害者本人ですから、通訳者に話すのではなく、本人の顔を見てください。

■筆談および、文字通訳をするときにこころがけていただきたいこと
  • 濃く、はっきりした読みやすい文字で書く。
  • まわりくどい表現、あいまいな表現は避ける。
  • いくつもの従属節や逆接を含む長文は避け、要点を手短に、わかりやすく書く。
  • 意味が変わるような省略、要約は避けて、もとの言葉、意味内容に忠実に書く。
■放送やアナウンスがあったとき・・・
文字や視覚情報で聴覚障害者に伝えてください。聴覚障害者の多くは、アナウンスや連絡事項が音声情報だけで流されると、情報の存在自体に気づきません。放送があることがわかっても、何を言っているかはほとんど把握できないのです。そのために大きな不利益をこうむることがあります。たとえば構内放送などは、かならず聴覚障害者に筆記で伝えるか、紙を貼りだすなどして、文字や視覚情報で伝わるようにしてください。

(監修:東京大学先端科学技術研究センターバリアフリー分野客員教授 大沼 直紀 , 2010)
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