肢体不自由について、知っておいていただきたいこと
1.肢体不自由とは
肢体不自由とは、四肢(上肢・下肢)、体幹(腹筋、背筋、胸筋、足の筋肉を含む胴体の部分)が病気や怪我で損なわれ、長期にわたり歩行や筆記などの日常生活動作に困難がともなう状態をいいます。原因としては、先天性のもの、事故による手足の損傷、あるいは脳や脊髄等の神経に損傷を受けてなるもの、関節等の変形からなるものなどがあります。
一口に肢体不自由といっても、障害の部位や程度によってかなり個人差があります。たとえば、右足に障害がある場合、左半身に障害がある場合、あるいは両足、全身の運動動作が不自由という場合もあります。また障害の程度も、日常生活動作にさほど困難を感じさせない程度から、立ったり歩いたりなどの動作に支障があるため杖や車いすや義足などを必要とする程度、日常動作の多くに介助を要する程度などさまざまです。
2.肢体の不自由な人と接するとき
肢体の不自由な人の障害の部位や程度はさまざまであるため、歩行の状態や介助方法などは一人ひとり異なります。たとえば、車いすに乗っている人や杖を使って歩く人にとっては、ちょっとした段差や坂道が、移動の大きな妨げとなります。手指や手・腕がなかったりまひがある人は、文字を書いたりお金の扱いなどの細かな手先の作業は難しい面があります。また、肢体の不自由な人の中には、自分で移動できる人もたくさんいます。まずどのようなサポートが必要なのかを尋ねて、各人のニーズをよく確認したうえでサポートしましょう。
また、介助をするという直接的な対応のほかにも、「見守り」という間接的な対応もあります。手を出すだけではなく、必要に応じていつでもサポートできるよう、声やサインが読み取れる距離に待機して「見守る」ということも大切な対応です。相手に応じて、また場面に応じてぜひ活用してみてください。
以下では、車いすに乗っている人、杖を使っている人、介助犬を連れている人への対応についてまとめました。
● 車いすに乗っている人について
【基礎知識】
・車いすの種類には、手動車いす、電動車いす、手動兼用型切替式電動車いす、スクーター式電動車いすなどがあります。
・最近では軽量化が進んでいますが、電動車いすの重量は、約40~60キロ前後またはそれ以上のものもあり、人を乗せたまま持ち上げることは非常に困難です。
【介助の前に】
・事前に、かならず車いすに乗っている本人に介助方法を確認してください。
・車いすには可動部分や取り外し可能な部分があるため、車いすの構造をよく確認しておきましょう。
【介助のポイント】
・車いすを動かすときや進行方向を変更するときには、事前の声かけをこころがけてください。
・介助者が、車いすを動かす前に「今から動きます」「前に進みます」などの声をかけることにより、車いすに乗っている人は、これから何が行われるのか予測がつき、安心することができます。車いすを止めるとき、バックするとき、曲がるときにも、事前に声をかけてください。
・車いすを押しているときに前輪が段差に引っかかると、勢いで利用者が前に落ちてしまうことがあります。段差があるときは一時停止をしてから越えて下さい。(写真.1)逆に、傾斜が急なスロープなどでは、車いすが後ろに転倒してしまうことがあります。状況にあわせてバランスに注意してください。
・停止するときや、介助者が少しでも車いすから離れる場合は、ブレーキをかけます。(写真.2)
・車いすでの移動は、階段、段差だけでなく、人混み、狭い通路、急なスロープ、通路の傾斜等の通過にも困難をともないます。狭い通路やドアを通過するときは、車いすの左右に注意してください。標準的な車いすであれば、おおよそ80cmの幅があれば通過することができます。急なスロープを下るときは、後ろ向きに下りるようにします(写真.3)。いずれも、事前に本人へ確認をしましょう。
写真.1
写真.2
写真.3
【車いすに乗っている人とのコミュニケーション】
・車いすに乗っている人の中には、言語の障害をともなっている人もおり、コミュニケーションが難しいことがあります。わからないことは、文字で書いたり丁寧に聞き返したりして確認してください。
● 杖を使っている人について
【基礎知識】
・杖の種類には、松葉杖、T杖、ロフストランド杖などがあります。
(松葉杖) | (T杖) | (ロフストランド杖) |
・杖を使って歩いている人の中には、高齢の方や怪我をして一時的に杖を使っている人もいます。また高齢の方はシルバーカーを押して歩いていることもあります。
【介助のポイント】
・それぞれのペースでゆっくりと対応するようこころがけてください。急がせてしまうと、混乱したり、慌ててつまずいたりなどして、思わぬ事故につながります。
● 補助犬を連れている人について
【基礎知識】
・補助犬とは、身体に障害のある人を補助する「盲導犬」、「介助犬」、「聴導犬」の総称です。盲導犬は、視覚に障害のある人の移動の支援をします。視覚に障害のある人の指示に従って、安全に誘導をします。介助犬は、肢体に障害のある人の動作を助けます。着脱衣の補助、扉の開閉、手の届かないところに落としたものを拾ったりします。また聴導犬は、聴覚に障害のある人の耳の代わりとなります。赤ちゃんの鳴き声、FAXの呼び出し音、ドアのチャイムなどを、聴覚に障害のある人へ知らせます。
・「身体障害者補助犬法」により、公共の施設や交通機関、デパートやスーパー、飲食店などの不特定多数の者が利用する施設の管理者等は、身体障害者補助犬の同伴を拒んではならないことになりました。この法律をきっかけに、今まで以上に補助犬を受け入れる体制作りに積極的に取り組もうとするお店や施設が増えてきました。
【介助のポイント】
・補助犬の場所の確保をお願いします。通常は、利用者の左横になります。
・車いすを押すとき、補助犬にぶつからないように気をつけてください。
・補助犬の集中力が途切れるような行動(触る、声をかける、見つめる、食べ物を与えるなど)は、しないようにしてください。
・どのような状況でも、利用者の意見を尊重することをこころがけてください。たとえば、補助犬を同伴している人が電車に乗ったり、補助犬に水を飲ませたりしているとき、周囲の人が利用者へ確認をせずに補助犬に手を出すことは避けましょう。